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ティンカーベルとウェンディ
「ねぇ、ティンク、どうしてあの子は帰っちゃったんだろう」
膝を抱えた彼がそう言った。
「現実の世界に帰ったら大人になっちゃうのに。ここではいつまでも楽しく暮らせるのにね」
寂しそうに不満そうにそう言った。
「ねぇ、どうして私に意地悪するの?」
ウェンディの問いに私はふいと顔を背けた。
「拗ねてるのね。おもちゃを取られた子供みたい」
呆れたように彼女がそう言っていた。
彼女はまだ子供のくせにどこか大人びていて不思議な人だった。
気に入らないと思っていたはずなのにいつのまにか心を許していた。
それなのに彼女は現実の世界に帰ると言ったのだ。
「あのね」
そっと私の耳元で彼女が呟いた。
「いつまでも夢見る少女じゃいられないのよ」
ふんわりと身に纏う寂しさが奇妙なくらい魅力的だった。
彼女は大人になる。美しい大人の女性になるだろう。
私が一生かかってもなれないもの。妖精の魔力を使ってもなれないもの。
心臓が焦げるくらい惹かれるのは私には決して届かない憧れだったからかもしれない。
あっけなく失ってしまった彼女のことを私は忘れることができないだろう。
傷を舐め合うみたいに、心の隙間を埋めるように、彼の背中に抱きついた。
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