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生まれた時から塔の中。そこには私と彼女しかいなかった。
だから特に何だということもない。こんなものだと思っていた。
そんなある日男の人が現れた。間違えて私が塔の中に入れてしまった。男の人はおろか彼女以外の人が初めてで楽しかった。全てが物珍しかった。
彼とは何度か会った。私が塔の中へと入れた。ある日、彼は息を荒くして私の体を弄って来た。それがどうということではないが、そんなことがあった。
「あの人を上に上げるのは、あなたを上げるより疲れるわ」
そして再び彼女が来た時、ふとそんな話をしてしまった。うっかり口が滑った。
彼女は怒って私の髪の毛を切り、塔から追い出した。
どうしようかと考えながら森を彷徨っていると目の潰れた男と会った。彼と話しているうちに気付いた。この人は、私が塔に入れた男だと。目を潰されたのは彼女がやったんだろう。かわいそうに、私のせいで、と思ったがそれだけだった。彼と一緒にいても前のような感情はない。楽しくない。
何でだろう。彼女が負わせた目の怪我だけが気になる。何でだろう。首の後ろが寒い。彼女に髪を切られたから。頭が軽いのも彼女に髪を切られたから。
塔の中に帰りたいと思うのは、外の世界に彼女がいないとわかったから。塔の下へと戻って泣いていると彼女と会えた。また二人で塔へと戻った。これでいい。これがいい。最初からこうだったから。最後までこうでなくては。
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