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「社長、そういうわけで、これ面白かったわ」
やや年代を感じさせるパッケージのDVDを受け取り、京乃介は肯いた。
「ふん、何が面白いだ。急にいなくなりやがって。しかし、まあいい。私も君に貸していたことなんてすっかり忘れていたんでな」
独立宣言の日以来、熊谷は姿を消していた。
埼玉に住んでいたほかの従業員たちも同様だが、工場は潰れずにすんでいた。
サイタマの独立は、表向きは平和裏に収束した。
一滴の血も流れずに済んだのは、巨額を投じた細かなフォローがあったためだ。
日本の企業には、国民に技能教育をしてもらった。
どこからかき集めたのか、サイタマはそのような名目で方々に金をばら撒いた。
京乃介の工場も例外ではない。
なんとサイタマは、5年分の売り上げに相当する金額を用意してくれたのだ。
「独立後、すぐに工場を立ち上げたんで、返すのが遅くなってしまったが。社長も元気そうでなによりだ。おかげであんたから教わったことは俺の生命線のひとつになっているよ」
もともと長身で精悍な顔立ちだった熊谷の表情は、日々が充実しているのか、さらに引き締まっていた。
能ある鷹は爪隠すというが、それはどうやら本当らしい。
かつての埼玉には人知れず優秀な人間が集められ、独立の準備が進められていたという。
たとえば、シンガポール。
真偽は定かではないが、独立主導者たちは長年にわたって他国で実験を行っていたと聞く。
実際、昨年発表された「賢い国ランキング」でシンガポールはIQ、こどもの学習成績が堂々の1位を記録した。
が、それは独立主導者たちのコンサルタントの賜物という噂もある。
シンガポールの国土は狭い。
関係者たちが仮想サイタマに見立て、外国の政治に関与しつつシミュレーションを行っていたのだとしたら、相当に入念な計画といえるだろう。
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