キミが触れる

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普段好んで飲むことをしない幸也が、しかも一気飲みなど何かあったと言っているようなものだ。 恐る恐る声を掛けたキョウに向けられたのは、目の据わった幸也の鋭い視線だった。 「何、どしたのお前。ヤケ酒?」 「……消毒」 「消毒?」 まさに飲もうとしていたところでグラスを奪われた和雅も首を傾げる。 モーゼの如く人の波が左右に分かれて行く中を幸也が鬼の形相で歩いてきたときには、殴り掛かられるかと身構えてしまった。 性質の悪い連中にでも絡まれたのか、幸也がこんなにも怒っているのは珍しい。 手の甲で口を拭った幸也はやっと少し落ち着いたのか、大きく息を吐き出してソファに深く沈み込んだ。 「で、何があったの」 「……2人共、2年前俺に付き纏ってた奴がいたの覚えてる?」 「2年前?……あー、あぁいたね。金髪の」 來斗がいない隙を狙っては幸也を追いかけていたのをよく目にしていた。 数いるナンパ野郎の中でも群を抜いてしつこかったのと、その影響で來斗の理性が怒りで潰されていくのを目の当たりにしたので、和雅もキョウも記憶に残っている。 「さっきそいつと会った」 「マジで?とうとう見つけたんだあいつ」 「……とうとう?」 聞き捨てならない台詞に、幸也の眉がピクリと跳ねた。 「結構有名だったぞ。ユキを探してることで、あちこちに声かけてたみたいだし」 「何でそれ早く教えてくれないんだよっ」 言ってくれればもっと警戒していたのに。 半ば八つ当たり気味に、キョウの身体を激しく揺さぶる。 「と、とっくに知ってると思ってたんだよ。話位耳に入るだろっ」 「さっき会うまで存在すら忘れてたっつーの。2年も経ってて普通は終わってると思うだろっ」 「わ、分かった、悪かった。と、とりあえず落ち着けっ」 頭を前後に振られながら、キョウが必死で宥める。 「ユキちゃん、ストップストップ」 面白いけど、と半笑いで和雅に止められ幸也も渋々手を放した。 この様子だと和雅も知っていたのだろう。 じろりと睨み上げれば、和雅は肩を竦めて新たに注文したグラスを傾けた。 「だってユキ、ライのことでいっぱいいっぱいだったでしょ」 「そ、れは……そうだけど」 「そこに更に面倒な野郎のこと吹き込んだらまた逃げそうだし、ライも怒りそうだったしねぇ」 和雅達なりの優しさだと言われたところで、ありがとうなどと微塵も思えない。
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