1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
試合が始まった。サポーターもあらん限りの声で声援を送る。
なかなか迫力があって、初めての私はどうしても圧されてしまう。よーこがいなかったら、身がすくんで動けなかったかも。
よーこが詳しく教えてくれて、4番の真ん中の選手が韓国の人で、16番の後ろの選手が、北朝鮮の代表の選手だという。
「キム・チファン!」(金志煥)
どんどんどん!
4番の韓国の選手に声援が送られる、それから、
「リ・クァンウン!」(李光雄)
どんどんどん!
北朝鮮代表選手に続けて声援が送られる。よーこも一緒に声をあげる。
私は思わずぼーぜんとした。
金さんは韓国から来た人だけど、李さんは朝鮮学校出身の在日の人だという。
朝鮮学校を卒業してプロになる人もいるけど、そこからさらに代表に選ばれる人もいるのだと。それほどになればやはり年収も高めになるが、今年クラブは奮発して戦力増強をはかったと、よーこは教えてくれた。
「……でも、韓国と北朝鮮の人が、日本でチームメイトで、一緒に試合をしてるだなんて」
「うん、そうだよ」
「そんな簡単に言う……」
それは新しい発見でもあり、驚きでもあった。
色々あって揉めて、近くて遠い国なんて言われたりもして。だけど、ここではそんなことはないかのようで。日本人選手と同様に、この二選手に声援が送られている。
私は、ものすごいものを見せてもらっているんだろうか……。こんなことがあるのか、と。新しい発見と驚きに呑まれてしまった。
はっとした。
「ああ、そういえば、サッカーサポーターは平気でひどいことをする乱暴者って、私よーこに言ったことがあったね」
「そうだっけ?」
彼女はすっとぼけた反応をするが、あれはよーこがそうだと決めつけて言った事だった。
「まあ、一部ひどい人はいるけどね」
と、ぽそりと言った。でもそれからすぐに。
「まあ、まあ、試合を楽しもうよ」
よーこは楽しそうに声を出して、それを見て私も思い切って声を出した。
「うおおおーーー!」
会場がどよめいた。ブルードラゴンズの選手がシュートを決めたのだ。シュートを決めた選手は右手を高々と上げて。他の選手たちはその選手のもとに集まって、健闘を讃え合っていた。
私も、よーこと手を取り合って、シュートが決まったのを喜んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!