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「……ここは、なんなの? 」  不意に怖くなって、そろりと訊ねる。  若旦那は笑みを深めて事も無げに言った。 「ここは、魔宵ヶ旅館さ」 「マヨイガリョカン? 」 「そう。この旅館はね、明空がいた世界とはちょっとばかり違う場所にあるんだよ」 「僕、死んだの? 」  驚いて問うと、若旦那はゆったりと首を振る。 「いいや。お前さんは死んでない。ここは極楽のようだけど、極楽じゃない」 「じゃあ、どういうこと」  訳が分からずに眉を寄せると、若旦那はちらりと目だけを向けて唇の端を片方だけ引き上げた。 「明空の世界と極楽の、ちょうど狭間、とでも言えばいいかねえ。……この旅館は妖怪が泊まるのさ」 「妖怪……」 「そう。知っているかい」 「砂かけ婆とか、ぬりかべとか……? 」 「そうそう。知ってるじゃないか」 「本当にいるの? 」  訝しげに訊ねると若旦那は首を竦めた。 「いると思えばいるし、いないと思えばいない」 「なに、それ。じゃあ、ワカダンナさんも妖怪なの。あのお千って子も」 「あたしは人間だけど、お千は座敷童だよ」 「あたし? 男なのに、あたしって変なの」  思わぬところを指摘されて、若旦那はきょとん、と明空を見返し、それから「ははは」と歯切れ良く笑った。     
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