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「あたしに言葉を教えてくれたのがここの先代でね、噺家さんだったんだよ」 「ハナシカ? 」 「落語をやる人のことさ。知っているかい、落語」 「笑点? 」 「そりゃ落語というより大喜利だね。でも噺家であることには変わりない」 「ワカダンナって名前も、その人がつけたの」 「若旦那は名前じゃないよ。先代から引き継いでここを取り仕切っているからそう呼ばれているだけさ」  くすくすと笑いながら答える若旦那に首を傾げ、それなら名前はなんて言うのか、と訊ねようとしたところで、お千の声が辺りに響き渡った。 「ご飯ですよー」  叫んでいるわけでもなさそうなのに、その声はマイクでも通しているかのようによく響く。 「よし、行こうか」  そう言った若旦那に手を引かれて、縁側を後にした。
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