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 箸を取って食べようとすると、その手をぺちん、と横から叩かれる。驚いて顔を上げると、若旦那がほんの少し怖い顔で見ていた。 「まずは、手を合わせて『いただきます』だろ」  初めて言われたそれに戸惑っていると、若旦那は明空の手から箸を取り上げて一旦置き、「こうやるんだよ」と両手を合わせた。 「いただきます」  見様見真似で「いただきます」と告げると、若旦那はにっこりと微笑む。 「よくできました」  さらりと頭を撫でられて擽ったいものを感じながら、明空は箸を取り上げてうどんを慎重に啜った。  溶けそうなほど柔らかく煮込まれたうどんはさほど噛まなくてもつるりと喉を落ちてゆく。  胃の中から温まるようで、ほう、と息を吐き、頬を緩めた。 「あったかい。おいしい」  若旦那を見て言うと、彼は優しく頷いて「ゆっくりお食べ」と返してくれる。 「食べられそうなら、他の料理も食べていいからね」  と、お千が忙しない動きで取り皿を置いて行った。  熱々のうどんを食べるのは久しぶりで、ふうふうと息を吹きかけながら夢中で啜る。  家では火を使うなと言われていたし、ポットもなかったから、ご飯といえば大抵コンビニのおにぎりかパン。スーパーで買い込んだ菓子パンは、賞味期限が切れていることもあった。     
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