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手を引いて風呂場を出ると、お千は今気づいたとばかりに明空をしげしげと見た。
「あんた、いくつ? 四つ? 五つ? 」
「十歳……」
「は? 」
お千は目をまん丸にして、口をあんぐりと開ける。
「嘘でしょ、小さすぎない? 痩せっぽちじゃないの。ちゃんと食べてるの? 」
その問いに俯くのを見て取って、お千はしまった、と口を噤んだ。
「……雨女が拾ってくるくらいだもの、訳ありに決まってたわ」
ぼそりと口の中で呟き、お千は気を取り直して明るい声を出す。
「うちは料理も自慢よ。美味しいものをたっくさん用意してあげる! 」
「ちょいとお待ち、お千」
どこからともなくかかった声に、明空は驚いて体を跳ねさせる。
柔らかな低音は、先程の『若旦那』のもの。
そろりと肩越しに振り返ると、若旦那が目を瞬かせて微笑んだ。
「すまないね、驚かせたかい」
明空に詫びてから、お千に目を移す。
「そんな痩せっぽちなんだ、胃も小さくなってるかもしれない。消化にいいものじゃないと腹を壊しちまうよ」
「あ、そっか」
そこでお千は明空の手を放し、母が子に言い聞かせるように目を合わせて言った。
「ご飯の用意が出来たら呼ぶから、若旦那と待っていなさいね」
随分とお姉さん風を吹かせて、彼女は小走りに奥へと消えていく。
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