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零
ちちち、と小さな鳥が甲高い声を上げて飛んでゆく。
縁側に腰掛けてのんびりとそれを見上げていた男に、部屋を覗いたおかっぱ頭の童女が声をかけた。
「ねえ、若旦那。雨女を知らない?」
若旦那、と呼ばれた男は首を巡らせて童女を見返す。
「雨女? さて、見てないが……」
その返答に、童女は盛大に溜息を吐いて腰に手を当てた。
「今日はお客が多いから手伝ってって言っておいたのに。現世に行ってるのかしら。また何か拾ってこなきゃいいけど」
ぷりぷりと怒りながらも「お邪魔様」と言って部屋を出て行く童女を見送って、若旦那は晴れた空に目を戻した。
もう鳥は影もなく。
「……嫌な予感がするねえ……」
ぽつ、と呟いてそっと息を吐いた。
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