1/8
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

 

眠れない夜が続いた。 きっかけは、失恋だ。 失恋と言っても、気持ちすら伝えてないのだけれども。 寝返りを打つ。 まぶたを閉じても、脳裏に浮かぶ彼女とその隣を歩く知らない彼。 とても親しげで、腕を組んで、歩いていた。 離れろ。 頭の中の二人に叫ぶ。 届かない声。 これが夢ならいいのに。 いつも大学ですれ違う彼女。 向かう教室から違う学科だと分かった。 サラサラの髪が歩く度に揺れる。 大きな声で笑うことは少ないが、時々はにかんだように笑う姿を何度か見かけた。 それだけで。 見ているだけで、十分だった。 体がだるくて大学をさぼる。 頭が痛い。 鼻も何かムズムズする。 これで何日目だろうか。 スマホの電源が切れているが、充電する気が起きない。 別にどうでもいい。 まるで今の自分みたいで、自嘲する。 眠い。 眠たい。 けれども眠れない。 そんな日が続いた。 抱き枕を使おうと思ったのは、思いつきだった。 よくテレビのコマーシャルで見かける、自分と同じくらいの大きさの抱き枕。 そのコマーシャルでは、最近よく見かけるアイドルが安心しきったように自分の体を預けて眠る姿で終わるのが印象的だった。 ただし同じものを買うほどの金銭的余裕は大学生にはない。 そこで家の中にあるもので工夫する。 バスタオルを丸めたり。 じゅうたんを丸めたり。 新聞紙、カーテン、洋服、色々試す。 けれどもなかなかしっくりこない。 そんな中でしっくりきた「抱き枕」。 これで眠れる。 やっと眠れる。 彼女のことを考えなくてもすむ。 高揚に似た気持ちを胸に抱いて、瞼を閉じた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!