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ぽつねんと立つ郵便ポスト。そのまわりに民家はあるが人はいない。山あいの人がいなくなってしまった村。
世界が戦争をしていた頃から郵便ポストはずっと前を向いて立っている。僅かな人たちの僅かな便りを届けては多くの笑い声や悲しみや祈りをずっと聞いてきた。
今は、誰もここに住むものはいない。それでも郵便ポストは幸せだ。
このポストのお腹にはいくつかの葉書がある。
誰にも届かない郵便物。それらが郵便ポストの口に入るのは、数週間か数ヶ月に一度。それをこっそり覗き見するのが郵便ポストの楽しみだ。
春の暖かな日、郵便ポストがのんびりと空を眺めていると一台の車が目の前に止まる。
来たと思い嬉しくなる郵便ポスト。車の運転席から女性が降りて、郵便ポストへと歩み寄る。
その手には葉書。宛先は天国の父。
『お父さん、天国で元気ですか。天国でも朝は毎日新しいのでしょうね。私に子供が産まれます。お父さん、あちらから見守っててね。どうか天国のお父さんに届きますように』
女性は、そう書かれた葉書を郵便ポストの口に入れて、すぐに車に乗って帰っていった。
郵便ポストは小さくなる車の後ろ姿を眺める。
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