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あの小さかった女の子も大人になったのだなと。
その女性は数週間経った頃、再び郵便ポストの前に立つ。
今度の宛先は天国の母。
『お母さん、新しくない朝はあるのでしょうか。私の旦那が仕事ばかりでなかなか会えないの。同じ家に住んでるのに。毎朝、目覚めたときに彼がいないのが憂鬱です。子供が出来るからって頑張るのは分かるけど。寂しい。お母さんとお父さんはどうだったの?毎日同じ朝だったの?どうか届いてください』
女性の葉書には、よく新しい朝という言葉があった。その言葉を目にすると郵便ポストは切なくなる。女性はこの村で育ち、進学のために遠くに行き、遠くで就職をしたが、遠くで暮らしていたときに両親を災害で失った。この村の人たちは、その時からほとんどいなくなった。
女性はそれから郵便ポストに葉書を入れる。届くかどうか分からない天国への手紙を。
届けてやりたいが郵便ポストは歩くことすら出来ない。文面をそっと見て届いてくれと願うばかり。誰も来ない場所に彼女は来てくれる。誰も届けてくれない葉書を郵便ポストに入れてくれる。
郵便ポストは、頑張れと思うことしか出来ない。
女性の言う毎日新しい朝を迎えては、彼女の訪れを待つ。はじめの頃の葉書はごめんなさいとばかり書いていた彼女。
時が経つに連れて新しい何かを天国の両親に伝えるようになった。
どうか幸せになってと郵便ポストは願うばかり。
彼女が無事に郵便ポストを訪れるから郵便ポストは幸せだ。
それから暫く女性は来なかった。
郵便ポストは寂しくはなかった。子供を産むために頑張っているからだと分かるから。
いくつもの新しい朝を迎えて冬が訪れた。
誰も訪れない村。たまに獣や鳥が郵便ポストの前を通る。話をすることは出来ないが、新しい何かがあると嬉しくなる。
春になれば植物たちが芽吹き、新しい何かが溢れ出す。そんな楽しみを持ったのは、やはり彼女の影響だろうと可笑しくなる。
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