市場都市アゴラ

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 荘厳なる雰囲気を醸し出す、最終品質管理室であるこの部屋は、どこか宗教めいた、教会のような空間でもある。広々とした空間と、贅沢の限りを尽くした内装もさることながら、やはりこの部屋の『眼玉』は、この巨大な『神の眼』と呼ばれる装置だ。大人の倍以上の大きさの機械の眼球。それが神の眼。全ての物を正しく分析し、解析し、価値を見定める『最終品質検査長官』。    アゴラがここまで、発展したのも、全てこの機械が発掘されたお陰だろう。神の眼が起動してからというもの、この都市の利益は高まるだけだった。物の価値が完璧に分かるというのは、その品物が売れるかどうかが分かることでもある。しかし、それ以上にこの眼が、高い価値を下したものを、人々はろくに自分で考えずに、買うのだ。何故なら、物の価値を正しく判断できる『神の眼』が言ったからだ。そして、この都市は発展続けてきた。 「これにて、貴方様方のお子様の検査は終了いたしました」    安堵の息を漏らしていた夫婦に、後ろからミドルマンは声をかけた。ミドルマンの背後からは、二人の部下が現れた。 「それでは、外までお送りいたしますので」  と、部下たちが夫婦を連れていく。夫婦の表情は、どちらも安堵と安心と満足で満たされていた。『たった』十三万五七八九ウェートの子供を連れて、夫婦は退室して行った。 「ミドルマン検査長官!」  退室した夫婦と入れ替わるように、血相を変えた一人の部下が洋書を抱えて、入室してきた。 「どうした」 「いえ、それが、こちらを!」  部下が洋書を差し出す。ミドルマンはそれを面倒そうに受け取り、内容を確認する。     
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