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その時だ。氷のような空間に、微かに異音が混じる。確かに聴こえた。
両手にうんと力を込め、スーツケースを擦らないように持ち上げ、音のした方角へと少しずつ歩く。ブラインドの降りた宝くじ売場。その角を曲がった所に、昔ながらのコンビニがある。高校生の頃に下校中、よく立ち寄った。店主は老夫婦だったから、セキュリティは甘いかもしれない。
”一攫千金”とプリントされた派手な看板に身を隠しながら、スーツケースを傍に置き、片目で覗き込む。
散乱するガラス片。自動ドアには人が通れるほどの大きさに尖った穴が開いており、傍にはコンクリートブロックが転がっている。
手口からして、奴らではない。ならば、先客か。しかし、居てはならない筈だ。この辺りは既に戦場なのだから。
コンビニの中から、ひときわ大きな音が響き渡る。何かが壊れる音。いや、壊そうとする音。何度も、何度も。叩きつける。苛立ちの混じった音。
やがて静寂が訪れると、靴音と共に、割れたガラスの入り口から人影が現れた。ニット帽から茶髪がはみ出していて、耳には無数のピアスが光る。だぼだぼのスウェットに、派手な色のパーカー。
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