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「え? 何してんの。先生辞めたのは知ってたけどさ。やっぱり、金に困っちゃった系? でねーととっくに逃げてるもんな」
固く笑いを浮かべる俺は、ふと我に帰り、彼に語りかけた。
「そんな事より。この区域は避難勧告が出ているだろう。此処に居ては危ない。すぐに逃げなさい」
その感じ、昔と変わんねえなあと鼻を鳴らした彼は、口の端を釣り上げながらこぼす。
「軍事演習だか何だか知らねえけどさ。金がねえ奴らがこの世にいる限り、略奪っつーのはつきものでしょ。せんせー授業で言ってたじゃん。災害時には日本でも起こったって。だから仕方ねーの」
呆れて溜息を零す俺は、思い出していた。二年前もそうだった。窃盗、暴力、迷惑行為。補導された彼を諭す時は、いつもこう言い返されていた。だって仕方ねーじゃん、と。
「ていうかさ。音どうにかなんない? 何なのそれ」相変わらず、アラームは大音量を機械的に鳴らしている。
唐突にスーツケースを奪い取った彼は、俺が止めるのも聞かずにロックを外し、中身が露わになった。
「え・・・・・・ちょ、これ。どういうことだよ・・・・・・」
ずらりと顔を揃える、お馴染みの肖像画。一枚につき、約10グラム。その数二千枚で、しめて20キロになる。
「い、いくらあんだよ、これ」
「2億円だ」
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