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極めて事務的に、俺は言い放った。
「えっ、あっ、そうか。銀行とか? さすがせんせー。やるじゃん。スケールが違うなー!」
そう言いながら、スーツケースの取っ手を固く握ったまま離さない。
「これ。離しなさい。危険だから!」
「いやいや、金ないって言ってるでしょ、さっきから。人助けだと思ってさ」
口調からさっきまでの馴れ馴れしさが消え去って、暴力的なニュアンスが見え隠れする。
「駄目だ。すぐに逃げないと、奴らが来る――」
対峙する彼の視線が、唐突に俺の背後で固まる。
「誰だてめぇ」
振り返ると、そこには少女がいた。全く気配を感じなかった。鮮やかな黒いショートヘアは風に小さく揺れており、小柄で華奢な身体は、黒と灰色のモビルスーツのような装備に包まれている。
静かに佇む、アーモンド型の大きな目。空洞のように無機質に結んだ口が、小さく開いて何かを発した。
「えっ。なんだ? 聞こえねー」
ぼそりと呟いた声は、アラームに掻き消されて届かない。
もう一度口が開いたので、苛立った彼は、少女に近づいて聞き耳を立てた。
「・・・・・・小便小僧? そんなもんねーよ、ここに――」
少女が脇に手をかけた瞬間、何かが太陽に重なり、宙を舞った。
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