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狼狽えた俺は、こつんと何かが当たった靴先に視線を落とす。突然切落された瞬間の、驚愕の表情のまま固まった教え子の首と、ばっちり目があった。
服屋によく置いてあるマネキンのようになった胴体を足で蹴って退かせると、苛立ちの混じった声が今度は耳に届いた。
「余命5秒、と言ったんだ。察しの悪い奴め」
スーツケースに絡みついた指を解こうとして、舌を鳴らした少女は、面倒臭そうに脇に手をやり、手首から先を切り落とす。今度は鋭い切っ先が見えた。
手首だけが持ち手をつかんだまま佇むスーツケースは、さながら社会的なメッセージを持つ芸術作品のよう。
「コール。聴こえるか。コードD。標的は殲滅した」
はっと我に帰った俺は、ポケットに手を突っ込んで身構える。何者かとハンズフリー通話をしている少女の背中を、じっと視界に捉えた。
「アラームが消えない。終わった筈だ。なに? こいつじゃない――」
振り返った少女の顔に、霧状の液体が噴射される。目を固く瞑り、えずき咳き込む少女。隙を突いてスーツケースを奪い取った俺は対面のビルへ逃げ込み、エレベーターに乗り込んで素早く"閉"を連打した。
閉じかかる扉。その向こうで我を取り戻した少女は、俺の姿を視界に捉えると、さっと脇に手をやった。
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