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嫌な予感。とっさに壁にもたれかかると、閉じ行く扉のわずかな隙間から、閃光のように何かが飛んできて、奥の壁に突き刺さった。
僅かに頬を掠めたか。切れて血の滲む頬に手をやりながら、反動で微かに揺れるナイフを見つめる。3階を押すと、エレベーターは静かに上昇して行った。
やっと訪れた、束の間の平穏。ポケットに手をやる。防犯スプレー。高校教師だった男が、かつて生徒に持たせていたもの。備えていて良かった。まさか、教え子ぐらいの年頃の少女に向かって噴射するとは。皮肉に笑みを浮かべた俺は、最上階にたどり着いた報せを聞いた。
見たところ、このビルにはエレベーターはひとつしかない。階段が併設されていたのは確認したが、登って来るまでに暇があるはず。何処か部屋に逃げ込んで内側から鍵を閉めるか、防火扉があれば行く手を塞いて、上手く逃げればいい。もう”残り時間”は数分しかない筈・・・・・・。
そう思案を巡らせていると、殺気を含んだ気配が近づいてくるのを感じる。馬鹿な。こんなに速く登ってこれるはずが――慌てて"閉"ボタンを叩いた俺の目前に、扉が閉まるのと同時に少女の鋭い眼光が現れた。
外から"開"を押される事を恐れた俺は、咄嗟に非常停止ボタンを叩く。思惑どおり、扉はロックされ、厳重な囲いの中に俺は護られる形となった。
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