あたらしい わたし

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 カーテンを少しだけ開いて外を見ると、知っている景色がすっかり塗りつぶされていた。  世界から、色が消えている。  昨日までは、色があった。屋根の色、椿の色、枯れ木にだって色があった。  色が、すっかり失われている。  初雪だ。  そう言えば昨日の夜、白いものが手のひらに乗った。  私の顔の近くだけ、窓が白く曇っていく。息をするたび、大きくなり小さくなり、まるで鼓動のようだ。  雪の白は色だけでなく、温度も奪っていく。  小さく肩が震えた。  外はきっと、もっと寒い。  目覚めた時のような冷たさを腹に感じることはなくなったけれど、代わりにグウと鳴った。  昨夜はまともに食べられなかった。  アルバイト先のレストランは、昨日も大盛況だった。  週末は特に忙しくて、厨房はまかないを作る余裕がない。ドリンクバーのココアを二杯と、パートのおばさんが帰りがけにくれたクッキーだけだ。  シフトが終わったあとなら、二割引で食事ができる。そうしている仲間もいたけれど、私はまっすぐに帰った。給料日は来週だ。財布の中には三百円しかなかった。  溜息をつきながら冷蔵庫を開ける。小さい冷蔵庫は、がらんとして広々と見えた。
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