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はじめは仲良くしようという気もなかった。匂いを嗅ぎつけるのか、残飯を狙っていつもやってくる。仕事の邪魔になるので口封じか、手懐けることを迫られた。口封じを選んでみるが、弾丸ひとつでは死なないらしい。自称、不死身。ショットガンかC4爆弾をもってきたら、とアドバイスされてしまった。しょうがなく話しをするうちに、ハスラーという化け猫娘のあれこれを聞くはめになった。
彼女曰く、人を殺したことは一度もないそうだ。
食人嗜好はあるけれど、殺人衝動はない。食べるのは決まって死体だけ。人間に例えるならば、フライドチキンを好きだからといって、にわとりを殺すのが好きとは限らない、ということだそうだ。
「人殺しはいけないことだよね。どうしてハニーは人間なのに人を殺すの?」
そう問われて、答えに惑った。彼女と同じことだ。結果として手に入る金が欲しいのであって、人を殺すことは趣味じゃない。こだわりはあるが、必要もないのにやるつもりはない。生ぬるいことに少々罪悪感を抱くこともある。けして俺は狂っちゃいない。
「ね、共犯者になろうよ。ハニーは殺す、私は食べる。足手まといになるってんだったら、代わりにサービスしてあげる」
どんなサービスができるんだ、と問い返すと、ハスラーは妖しく笑った。
「ごはんにおそうじおせんたく、こもりうたも歌ってあげるよ」
拍子抜けするようなことを言われて、俺は気が抜けた。その日の夕方にはどうやって見つけたのか隠れ家のひとつに押しかけてきて、ごはんにおそうじおせんたく、ついでにこもりうたまでサービスされてしまった。
猫の手を貸しつけられた気分だ。
奇妙な共犯生活は今に至るまでつづいている。
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