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しくじった。
俺はふぬけちまってたのかもしれない。獲物を仕留め損ない、お返しを貰ってしまった。向こうは手負い、こっちも手負い。相手は暗黒街の重鎮。仲間を呼ばれたら即刻ゲームオーバーだ。
赤煉瓦に肩を借りながら彷徨い歩く。いや、逃げている。早くずらからなければ。隠れ家まではあいにく、遠い。なにより、傷は深かった。意識がかすんでくる。撃たれる側になってみると、こんなに痛いもんなんだな、と壊れた笑いが時おり漏れた。
そんな血の匂いをかぎつけてきたのか、ハスラーが迎えにくる。白いワンピースをなびかせ、しなやかに体を躍動させ、屋根の上から降りてきた。
死神じみた目をしてた。好奇心と憐憫、どちらに傾いているのか、猫の瞳が震えていた。
「ハニー、死んじゃうの?」
まだだ、とぶっきらぼうに答える。
「痛い?」
痛いよ。
「怖い?」
怖ぇよ。
「嬉しい?」
なにがだ、なにが。
「だってハニー笑ってるよ」
お前に逢えて嬉しいんだよ。
「ねえハニー」
なんだ。
「そんなに見つめないでよ」
待ってろ、俺がくれてやれる最後のエサに今なってやる。
「ハニー、私ね……」
――。
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