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 目を覚ます。生きていた。隠れ家のベッドの上だ。腹の傷には乱雑に包帯が巻かれている。すこぶる痛むが、生きてる証拠だ。机の灰皿には摘出したと思わしき弾丸が転がっていた。ハスラーがやったのか。 「おはようさま」  ハスラーはシャワーあがりなのか、ブラウス一枚を着て、バスタオルでわしわしと髪を拭いている。いやに落ち着いていて、驚きも喜びもしていない。そういう時の、無感動な感じの表情はフィアに似ていて、涼しい心地になれる。 「ハニーは死にたいの?」  そうでもない。こんな日々に虚しさを覚えることはあるが、死ぬほどつらいこともないので、とりあえず生きている。それより、どうして助けた。そう俺は答えて、たずねた。ハスラーはあっけらかんと答える。 「死にそうな人を見捨てるのは、ある種の殺人だから。わたし、やだよ」  予想も期待も外した答えだ。ハスラーは一体、俺のことをどう思っているのだろう。そのじつ、ビジネスライクな付き合いなのかもしれない。一年近く一緒に過ごしてきたが、三日で恩を忘れてどっかへ行ってしまいそうな感じがする。俺はこいつに何を求めているのだろう。エサをやって、家事をさせる。癒しを求めるだけだったら、ペット扱いしてればいいじゃないか。  怪我のせいで弱気になってるのだろうか。ハスラーの淹れたホットミルクがやけに甘く、熱かった。舌が焼けそうだ。 「あちち」  ハスラーがふーふーとカップ相手に北風ごっこしている。本当に熱かったらしい。 「ハニー、これ呑んだら支度して。そのうち追っ手がくるよ。一緒にわたしとにげよ」  ハスラーは白い耳をしきりに動かす。もう一眠り、とはいかないようだ。
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