雨が好き

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「ほめて」  ざあざあ降りをBGMに読書しているとそんな声が飛んできた。少し驚いて顔を上げるとテーブルを挟んだ向かいのソファにわざわざ体育座りで子犬が座っていた。栞を挟んでぱたんと本を閉じる。  「急やな」  苦笑しながらそう言うと俯いて  「ほめて」 と。 そういう風に、幼子のように呟かれては褒めないわけにはいかない。組んでいた脚を解き、本をテーブルの上に置いた。そして傍らに移動し、頭を撫でてやる。  「えらいえらい」  「もっと」  「頑張っとる頑張っとる」  「もっと」  「欲しがりやな」 また少し笑いながら伝えるとすんっと鼻をならし始めた。これはいけない。本気で落ち込んでいる。  「どうしたんですかえいさん」と言いながらえいの頭に手を伸ばし、くっと肩に引き寄せると「うぅー」と堰を切ったように泣き始めた。こいつも色々あるんだなあと思いつつもう一度わしゃわしゃと撫でてやった。雨の音が響く。   しばらくすると、脚を三角形に繋いでいた手が離れた。落ち着いたのか、なんて考えから一転、その手はそのまま自分の体にするりと巻きついた。そして腹部に顔を埋めてくる。そのあまりに自然な動きに「流石たらし」と思ってしまったのは秘密にしておこう。  「元気ですかー」  「……」  「黙っとったらなんも分からんやろ、俺超能力とか使えへんから」  ふふっと息が漏れたのを聞き逃さなかった。今だな。  「ほら鳴いてみ。わんわんって」  しばしの沈黙が訪れた。流石に言い過ぎたか、と、己の発言を後悔し始めたころ  「……っはっはっはっ」  と唐突に大音量でいつものSEのような笑い声がしたものだから身体がびくっと反応してしまった。それを意にも留めないように  「おま……わんわんはないやろ……」  何プレイやねんっと言いまたげらげら笑い出した。 内心ぶん殴ってやろうかと思ったが、まあ後でゲームでボコボコにするぐらいで許してやろう。気が付けば雨の音は聞こえなくなっていた。
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