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あ、そうか。呟くような妹の声を聞いて気が付いた。妹が男の存在を意識してるということを知った瞬間、開き直って襲ってくるかもしれない。今は電話で牽制しつつ、気付いていないふりを続けた方が良い。後ろに男がついてきてるから、状況を声に出して話せないのだ。
「ああ、わかった。ごめんごめん。“はい”か“いいえ”だけでいいわ。要は、電車の中で変な男があんたの顔を見て、にやにや笑いかけてきたのね?」
「うん」
「そして、そいつはあんたと一緒に電車を降りて、駅からずっと後をついてきてるのね?」
「そう」
やっぱり変質者なんだ。どうしよう……。
「周りに人は?」
「ない……」
そうだった。実家は最寄り駅から結構離れている。この時間帯だと、確かに人通りは、まばらになるような場所なのだ。いよいよまずい……。
「あ、おうちが見えて来た」
「えっ?見えて来たの?」
とりあえず家の近くまでは来たのか。でも、どうする?……“走れ”と言うか?家のすぐ手前で急に走りだして、急いで玄関を開けて鍵をかければ、とりあえず逃げ切れるか……でも、家は確実にばれてしまう……そして、もし走り出した途端に追いかけてきたら……ああ、どうすれば。
「お姉ちゃんのマンションってクリーム色の五階建てのやつだよね」
「は?あんた、こんな時に何言ってんの?」
「引っ越しの時に一度来たから覚えてる。パステルハイツだよね。そこの103号だよね?」
なんで、こんな状況であたしの家の話をしてるの……?
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