鳩の恩返し

1/8
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

鳩の恩返し

 ゴミ捨て場で唖然として俺は、そいつを見ていた。ゴミ袋を提げた俺は、ごみ収集所の網の回りの黒いやつらを追い払った。カアカアと不満げにやつらが飛び立ったあとに、網の中で見つけた。そいつは、バタバタと羽をバタつかせてもがき、あたり一面に羽毛を撒き散らしていた。 「鳩ぉ?」 思わず俺は声に出していた。 どうやってその中に入ってしまったのか、経緯は知らない。 「お前、どんくさいな。」 やれやれと思いつつ、俺は手で網をめくってやると、自由を得たそいつは、ぱたぱたと飛び立って行った。そして、俺はゴミを放り投げると、鳥に荒されぬように、もう一度網をゴミに被せて仕事に出掛けた。  その日の夜、俺の部屋を訪ねる者が居た。友人はおらず、ましてや、遠く離れた故郷の年老いた親が訪ねてくるとは思えなかった。 なんだよ、こんな時間に。新聞屋かあ? ドアスコープを覗くと、そこには女が立っていた。 セールスではないようだ。バッグは持っていない。この時間の宗教はあり得ない。 「どちら様でしょうか?」 俺がドアの向こうからたずねると、女は下を向いてうなだれている。 「すみません。」 小さな声でそう言った。顔色が悪いようだ。     
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!