魔王討伐

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魔王討伐

魔王の居所を突き止めて、もうすぐでたどり着けるというところまでやってきた。 ここまでくるのに決して生半可な気持ちではなかった。戦う術も力も身につけてきた。ここまで勝ち進んできたという自信もある。それでもずっとずっと残酷な現実が目の前にあった。 「勇者! 撤退しよう! これ以上は無理だ!」 「回復が追いつきません…! 一度引きましょう!」 このままでは全滅する。負ける。死ぬ。死んだら元も子もない。でも、もし引いたら次は? 次はいつだ? 次なんてあるのか? そもそも無事に撤退することだってできるかどうか…。思考がまとまらない。襲いかかってくる魔物の相手に必死だ。 「大丈夫! 任せて! こんな奴ら、私の魔法でみんな倒してやるから!」 妖精の高い声にハッとする。 彼女の魔法を食らった魔物たちが怯む。さすが妖精だ。強力な魔法を使う。でも… 「先に行ってて! 大丈夫! 私、とっても強いから!」 思考はそこで中断され、妖精の明るい声に押されるように走った。先へ進もう、と。仲間が付いてくる。妖精は戦ってる。彼女の魔法は強いけど、けれど、でも、彼女自身はとても弱い。 魔物の爪先が当たれば、尾の先が掠めれば、それだけでやられてしまう。いつもそれを守りながら戦ってた。彼女の実力は誰かがいる状況で最大限に活かせる。一人じゃ無理だ。無理だと分かっているのに、置いてきた。進まなければならないと思った。もう引き返せない。 先に行っててという彼女の声が反芻する。無理に明るい声を出しているとわかっていたのに、置いてきた。 この先に魔王がいる。魔王を倒せば全部終わる。世界が救われる。誰かがやらなければいけないんだ。何かを犠牲にしてでも。 「私なら大丈夫。立ち止まらないで進んで行って。勇者、あなたを信じてる」 魔物との激闘の中で格闘家の彼女がそう言った。彼女の傷だらけの手はひどく小さく感じた。 「ありがとう。一緒に行こうって言ってくれて。すごく嬉しかった。私はあなたに救われた。お願い。もう、私みたいな子が作らないようにして。だから進んで。戦って」 小さな手は俺から離れて武器を装備した。そして素早く魔物の群れの中へと駆けてく。初めて出会った時と同じように彼女は一人で戦おうとしている。放って置けない。助けなきゃ。
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