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帰宅すると、西日が差し込む四畳半で真美がうつむいて座っていた。
声をかけようとした拓郎は思わず息を飲んだ。
真美は錆びたナイフを手にうっすらと笑っている。
そしてなにやらぶつぶつとつぶやいている。
「ねえ拓郎、あいつぶっ殺していい? なんかムカつくのよ私」
「お帰り」も言わずに真美はそう言った。
「……あ、あいつって誰? ぶっ殺すとか、そういうのやめよう姉さん」
「あの女は拓郎を狙ってる。気に入らない。久しぶりにナイフ使っていい?」
「姉さん、僕はバイトに行くから。帰りにケーキもらってくるからね」
「ショートケーキ。赤いイチゴが乗ったやつ。血の色のイチゴ……」
拓郎はいくつかバイトを掛け持ちしていたが、その日はケーキショップの店番だった。町外れの流行らない店で、時給は安かったが楽な仕事だった。売れ残りのケーキやパンをもらえるのが役得で、ありがたいバイトだった。
(今日も客が来なくて楽だな……)
「まだやってます? シュークリームがあればそれを……」
店内に飛び込んできた女子高生を見て、拓郎は絶句した。
「あ? あれ? 拓郎君? 私を5秒で振った拓郎君? 本気で?」
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