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狭い狭い一室で、真美は目覚めた。
「おはよう真美。ずいぶん長く寝ていたね。気分はどう?」
聞きなれたその声に、真美は言いようのない安心感を覚えた。
「拓郎、拓郎なのね本当に。ここはどこなの? 私わからない」
「安心して真美。「施設」じゃないから。僕も一緒だし」
「説明して拓郎。「施設」じゃないならどこなの?」
「ごめんね真美。僕は余計なことを言ったね。もう少し寝る?」
「そうね、ちょっと寝すぎてだるいかも。でも説明はしてよ」
四畳半の一室で、寝ぼけ眼の真美の髪を拓郎が撫でる。
「ここは鎌倉っていう町だよ。真美は初めてだね。いいところだよ。お寺がいっぱいあるし、大きな神社もある。きっと真美も気に入ってくれると思うな」
「ふうん? 教科書に出てくる町? 私知らないな……」
「ちょっと外に出て散歩してみようか? 近所を案内するよ。僕も近所のことはだいたい覚えた。おっと、その前に着替えて朝食を食べたほうがいいかな? ごめんね。この部屋お風呂がないから顔はその流し台で洗ってね。トイレは共同だから注意してね」
「キャアア! 虫、虫がいっぱいいる!」
真美の手のひらが中空を何度も切り裂き、部屋中の羽虫が古ぼけた畳の上に落ちた。
(ああ、真美の「能力」は健在だ。かわいそうに……)
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