千之家様さすけね

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男の子が驚いて立ち止まった。 ミナミの明るい声が聞こえた。 「どこ行くの? 寒くないの? どちら様なの?」 男の子はきょとんとした顔でミナミを見ていた。まるで初めてひとに会ったかのように。 男の子がゆっくり首をかしげた。 ミナミは今にも男の子の手をとって、家に連れて来そうだ。 誰とでも仲良くなれる妹。 でも千之家様さすけねと言わなかった。 あんべよくねえことが起きる。 私が面白そうでしょと言ったから。 素直な子だから。 男の子が首をかしげる。 首が真横になった。 見開かれた目がぐるぐると回っていた。 口を大きく開いて、声にはならない絶叫をしているように見えた。 さらに首がかしいだ。アゴが空を向き出す。 ミナミが悲鳴をあげた。 細い髪の毛が激しくふるえた。開かれた口はバスケットボールぐらいの大きさになっていた。その奥は真っ黒な空洞だ。 ミナミの悲鳴がたかまった。 1階でママが「みーちゃんどうしたの!」と叫んだ。 ぶるんっと勢いづいて男の子の首がもげた。 もげた首は口をさらに大きく開いて立ち尽くす胴体に向かい、それをごくごくと飲み込み首だけになって地面に落ちた。 悲鳴がしていた。 私の悲鳴だ。 地面に落ちた首をミナミが拾いあげた。 あんべよくねえことが起きた。
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