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秘密とは、共有できないものだ
彼女は、僕の顔をじっと見ていることが多い。
ご飯を食べる時や、並んで歯を磨いている時は勿論のこと、夜中にふと目覚めた時、暗がりの中で僕の顔を覗き込んでいる彼女に驚いたことは一度や二度ではない。
「……どうしたの?」
暗がりの中、疑問をそのまま口に出したのも一度や二度ではないが、その度に彼女はなんでもないことのようにこう言うのだ。
「あなたの事が、好きすぎて、幸せだなーって思って見てたの」
そうか、そうか、かわいいやつだ。定型文のようにそう返事をして、彼女をぎゅっと強く抱きしめて、腕の中の閉じ込めてはまた眠りに就く。それがいつものこととなっている。
そんなある日、仕事が思った以上の早く片付いて、予想以上に早く帰れることになった。
一緒に暮らして早三年、そろそろ男としてけじめをつけるべきなのだろうとぼんやりと思っている最中だった。もうあと一月で彼女の誕生日。それをきっかけにこの状況を打破しようと僕は企んでいるのだ。
がちゃ、とカギを開けてただいまと声を掛ける。返事はない。いないのかな。
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