天国は高級旅館~前編~

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(三日間しか天国にいられないなんてなぁ……。てゆかスケジュール的に、天国にいられるのって実質二日じゃね? 慌ただしすぎる!)  受話器を元通りに戻し、腕時計モドキで時刻を確認すれば、そろそろ十六時になろうとしていた。 (けど部屋でそれを恨んでいても、くつがえせるわけじゃないし。出かけるか)    窓の外はまだ全然明るかったので、俺は少しでも天国を満喫してやろうと、脚のしびれが回復した後、プールへ行ってみることにした。  一階へ下り、フロントに立つ赤色のはっぴを着た女性にプールの場所を訊き、案内通りに進めば、目的地へすぐたどりついた。   (めちゃくそ豪華で、デカいプールだな!)    入り口で使い捨てだという水着をもらい、更衣室で着替え、プールサイドへ立った俺は驚いた。  巨大とはいえ近代建築じゃない木造の旅館だし、精々学校にあった程度のプールに、ビーチチェアとパラソル――その程度だと予想していた。  しかし現実は俺の貧相な予想を大きくくつがえし、ここだけで独立営業出来そうなほど豪華だった。  プールはひとつではなく、三つもある。  浅く小さな子供用、ドーナツ型のものは浮き輪に乗ってぷかぷか出来る『流れるプール』、一番大きな長方形のプールにはスライダーがついている。  もちろんビーチチェアもパラソルも、飲食を提供する店もあり、バーらしきものまで見えた。   (しかも全部温水ときた……。プールなんていつぶりだ? 高校ぶりくらい?)    浮き輪を借りた俺はそれに乗り、流れるプールでのんびりと楽しみつつ、周囲を観察する。  プールはそこそこ盛況で、小学校高学年から五十代くらいの年代の人間が利用していた。還暦以上の年代もいなくはないが、少ない。  おそらく一番人数の多そうな高齢者区分の人たちは、別の場所で違う遊びをしているのだろう。  そしてたぶん全員日本人ぽい、と思った。   (ここは日本で死んだ人か、日本人用の天国なんだろうな。従業員の格好からしてはっぴや袴で、日本的だし)
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