死因は窒息

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「お待ちしていました」    ぬるい湯船につかったような感覚の中、声が聞こえた。  とても近くで聞こえるから、俺への言葉だと思う。  けれど俺は今、目をあけるのがひどくおっくうで――とても眠いのだ――だから、誰が話しかけているのかは分からないのだけど、とても優しい声だった。   「これからはもう、あなたに寂しい思いはさせませんから」    優しい声は決意をにじませ、言葉を続ける。  誰とも知らない人物の発言に、「それってマジで言ってる?」と聞き返したかったが、眠気がすごくて唇が動かない。   「だからどうか――」    些細な孤独から逃れたい俺は続きを聞きたいのだが、睡魔は俺の意識をすみやかに食い尽くしていく。  続くのはきっと大事な言葉だ。なのに、聞くことが出来ない。  あぁ嫌だ! どうして俺の人生って、いつもこうなんだろう?  ――胸を焼く悲嘆も苛立ちも諦念も、すべてはまぶたの向こう側へ追いやられ、俺は眠りの海へと沈む。
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