天国は高級旅館~前編~

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 部屋に備えつけの、電気ケトルっぽいもので湯を沸かしてお茶をいれ、和菓子をつまみつつ、カタログのページをめくる。  全ページフルカラーのカタログには、俺が生きていた世界を含め、合計七つの世界が紹介されていた。  表紙をめくっての数ページには、俺がワタツミさんやチカ君と話したような、転生についてのQ&Aも、分かりやすく書かれてあった。 (魔法がある世界だけじゃなく、SFぽい世界も魅力的だけど……。それらの世界へ転生したからといって、チートやハーレムを得られるとは、ひとことも言ってなかったよな。カタログにも書いてないし)    おそらくだが、死ねばほとんどの人が転生をするのだろうから、その全員がチート持ちだなんてことはあり得ない。  これから何か特別なイベント――例えば『神様』に会って、『来世のお前にチートを授けよう!』という出来事でもおきなければ、転生先でも高確率で今世と同じくモブだろう。   (これから特別イベントが起きるかも?! ――なんて、確率が超低そうな期待はしない方がいいよなぁ……)    今のところ、人外らしさあふれた麗人と、大学生感しかない男、旅館の廊下ですれ違った平凡な従業員たちにしか会っていない。  彼らは『天国の住人』ではあるが、特別な力を授けてくれる神様ではないと思う。  運の弱い俺は、今日含めて三日という時間の中で、神様と偶然出会える予感が全然しない。   (『天国』というのはたぶん、大企業みたいなもんな気がする。だから「なら大企業の社長にあたる神様が、ただの客に会うことがあると思う?」と考えた時、その答えは「NO」だもんなぁ)  生前勤めていた会社は、そう人数も多くない中小企業だったが、一人で社長室にいるか外出していることがほとんどだった弊社社長とは、あまり顔を会わさなかったことを思い出す。  社長との遭遇率は会社によって違うとは思うが、大企業になればなるほど、下々の者が会える率が下がるのは間違いないと思う。  今俺が会いたいと願うのは、社長よりはるかに偉い神様なのだから、遭遇の可能性はもう言わずもがなである。
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