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「死者の皆様は、見学を希望する世界の番号がある看板の方向へ、ゆっくりお進み下さーい!」
チカ君と同じ青いはっぴ姿の男性が拡声器を持ち、死者たちへのアナウンスを繰り返している。
体育館を彷彿とさせる『桜の間』をぐるりと見渡せば、高い位置に一から七までの漢数字を掲げる大きな看板が、七枚あった。
(俺が見学希望な魔法の世界は、『五』だったよな)
カタログにはそれぞれの世界のことと一緒に、世界へ番号をつけて紹介していた。
冒頭のQ&Aのページにも、『各世界についている番号は見学の時に必要になるので、見学希望世界の番号は必ず覚えておいて下さい』と、注意書がされていた。
(もしかしてチカ君、この説明も俺にしなきゃいけないことだったんじゃないかなぁ? 彼、うっかりさんぽい雰囲気あるし)
見学希望者は朝十時に桜の間へ集合、ということすら伝え忘れかけていた、気さくだがチャラい彼のことを思い出す。
(……番号、覚え違えてたっていいけどさ。あんまり転生する気しないし……。だって来世に期待して、裏切られたら苦しすぎじゃんね)
人の波にのったり逆らったりしながら、『五』の看板へと近ずけば、看板の下に開け放たれた大きな扉が見えた。
その扉の向こうにも人々がたむろする部屋が見えたので、魔法がある世界の見学を希望する死者を、一度全員あちらの部屋へ収容するのだろう。
(チカ君は「引率つけてのグループ見学」と言ってたから、あっちの部屋でグループに分けられるのかな? ――それにしても、あれは何だろう?)
扉の前にはドア枠だけのようなものがいくつもあり、そこをくぐらなければ向こう側へは行けないようになっていた。
枠の傍にははっぴを着た職員が立っていて、空港にあるセキュリティゲートみたいだな、と思った。
「来た方から順に列を作って、お並び下さーい!」
ゲート近くに立って拡声器で指示を出す職員に従い、天国へ召された人間らしく、皆お行儀よく並んでいく。
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