天国は高級旅館~前編~

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天国は高級旅館~前編~

「では、これから三日間過ごしていただくお部屋へご案内するっス!」  ワタツミさんが出て行くと、チカ君にベッドから下りるよう促され、病院の大部屋のような部屋から廊下へ出る。  青色のスリッパをはいて出た廊下は板張りで、壁は漆喰で塗られていた。  「ついて来て下さいねー」とスタスタ進むチカ君の後ろを、周囲を観察しながらついて歩く。   (かなり年季の入った建物ぽいけど、綺麗だな。こういうの、レトロモダンとかいうのかな? 建築には全然詳しくないけど)    木造の建物は古いが痛んでいるような箇所はなく、塵ひとつない廊下や階段を進んだ先にあった広い玄関で、スリッパからビーチサンダルにはきかえるよう、チカ君に指示される。  エメラルドグリーン色のビーチサンダルをはき、黒い玄関の扉を開けて外へ出れば、辺りは一面の緑で。  俺が寝かされていた建物は森の中にあり、建物から数メートル先は、背の高い木々が生い茂っていたのだった。  周囲を囲む木々からは、圧迫感よりも清々しさを感じ、唯一の出入り口ぽい森の中へとのびる小道にも、不気味さなどはない。   「これから三日間過ごす部屋というのは、遠い場所にあるんですか?」    生い茂る木々のせいで、俺が出て来た建物以外の人工物は見えず、小道の出口も遠くて見えないので、「遠いと嫌だなぁ」と思いながら質問する。   「お客様が考えてるほどは遠くないっスよ。この森は魔法の森ですんで!」    チカ君はにやっと笑って答えた。   「魔法の森?」 「通行資格のあるヒトと一緒に歩けばちゃんと目的地につくけど、ないと森の中をずっと迷い続ける、てヤツっス。下界のおとぎ話でもよくあるっしょ?」 「あー、なるほど」    おとぎ話によくあるかは知らないが、森の中でよそ見をしてチカ君を見失うとヤバイ、ということは理解出来た。
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