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老人は少年の脇を通り過ぎるように地面へと倒れ込む。
少年の目の前に、月明かりに照らされて現れたのは深くフードを被った男の姿。
逆光で顔が見えない。
突然、フードの男が背を向け走り出す。
少年は目で追う。
途中、梅の花に目を止めた。
先程まで真っ白にさいていた花がピンク色に色付いていたからだ。
少年は直ぐに理解した。
血だ……
額から流れ落ちた水滴を手で拭うと手が真っ赤に染まった。
呼吸が、息苦しい。
間違いなくこの血は『おじいちゃん』のもの。
恐る恐る少年が老人の方へ向く。
荒い呼吸を繰り返す老人が何か言いたげに少年の方を見ていた。
胸からは青白く輝く刃が突き出し、傷口からは血が溢れ出るようであった。
「刀真……」
「おじいちゃん」
「いいか、よく聞け。志を忘れてはならない。剣は只の凶器。剣に呑まれてはならない。」
老人は深く呼吸をする。最後の力を振り絞る様に。
「そうだ、『守る剣』だ。じいちゃんと同じ志を持て。大事な人達を守るんだぞ」
消えていく命、少年はただ見守る事しかできなかった。
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後日、辻斬りは逮捕された。
しかし、老人を斬った者ではなかった。
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