守る剣

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闇夜に煌めく脇差しを片手に、背の高いブロック塀に囲まれた路地を駆け抜ける男。  黒い布で覆面し、紺色の稽古着に袴姿で腰には二本の鞘を差す。  『この男』は逃げていた。  『この男』から真剣を奪った『あの男』から。  斬られた二の腕から血が滲み痛みが走るが止まっている場合ではない。  『あの男』がすぐそこまで来ているからだ。 「相手が悪かった……」  この逃げる男は辻斬りであった。  流流(るる)共の築いたこの国、偽りの魂を掲げるこの国に異議を唱えるため、今日も闇に紛れて愚人共を始末するハズだった……  後ろからの足音が途絶えた。  撒けたのか。  辻斬りは足を止め汗を拭う。  まだ肌寒い風が急激に背中を冷やす。  後ろから月明かりに監視されているようで、嫌な夜だ。 「みつけた」  突然、目の前の塀を飛び越えて現れた人影。  顔が隠れる程、ウインドブレーカーのフードを深く被った男。  そして、腰には木刀。  『あの男』だ。  右手には辻斬りから奪った真剣が刀身に月の光を走らせては闇に消える。  月明かりに照らされ闇に浮かびあがった男の口元は、うれしそうに笑っていた。  辻斬りは背を向け一目散に走り出す。  出直す、不覚をとった。あの流流風情に。  しかしあの男の狂気、常人のものではない……。  後ろから響く駆け足の音。  治まらない背中の鳥肌。  迫るそれは……死の足音。   辻斬りは呼吸も忘れてただひたすらに走った。  全身の血が泡立つ。  暑い、覆面を脱ぎ捨てる。  走った、そして時を忘れた……  そんな時、目の前の道を塞ぐ様に現れた、老人と少年。
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