守る剣

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男の荒々しい呼吸と共に、闇夜に浮かぶ刀は白銀の輝きを放つ。  目の前にした老人は、少年に下がる様にと手で誘導する。  老人を威嚇するように、弓形な白銀の光が二、三、空を斬り鋭い音をたてる。 「どけ!叩き斬るぞ!」  老人は怯まない。  狙うは一瞬、男の動きに集中する。  白銀の尾が伸び空を扇ぐ。  開かれた辻斬りの身体。  鋭く、且つ大きく、老人は左半身で瞬時に懐へ踏み込む。  刹那、左の打突。  男の右肩の付け根を捕らえ、右腕の動きを制止、上半身のバランスを狂わせる。  瞬時に腰を落とし、右手で襟元を掴み、左手は相手の右腕へ。  老人が腰をぶつける、男の身体は宙へ。  途中、襟元を離され男は受け身をとれず地面に鈍い音を響かせた。  一瞬、男が呼吸困難になったのを狙い刀を取り上げる。  刀を手にした老人は直ぐに真剣だと悟った。  しかし、老人に驚く素振りはない。  それは、老人の方が辻斬りを探していたからだ。  老人はこの辺りの剣術道場の当主だった。  こやつが、辻斬りか。  この辻斬りは帯刀した者を襲うという噂があった。  その事から志のある者なのでは、と考えていた。  年老いた自分だからこそ出来る事があると行動に移し、今に至るわけだ。  孫を連れて来たのにも理由があった。  危険はない、有ったとしても守れるという自信の元、経験を積ませたかったのだ。  しかし、予想に反し辻斬りの様子がおかしい。  老人は男の目をまじまじと覗き込む。  男の目は恐怖の色に染まっていた。  おかしい、何にそんなに怯えている?  良く見ればこの男、肩に刀傷がある。  嫌な予感が首筋に纏わり憑く。  老人が困惑した一瞬の隙を付き男がまた走り出す。  老人は追わなかった。  纏わり憑く嫌な感じが気になったからだ。  もし辻斬りがもう一人いて、そいつはただ殺人を楽しむ者であれば孫に危険が及んでしまうからだ。
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