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「おじいちゃん逃がしちゃって良かったの?」
離れていく男の後ろ姿を眺める少年。
男の背中は徐々に闇に埋もれていく。
少年は、ふと気付き空を見上げる。
今まさに白く輝く満月の月を黒い雲が覆い隠そうとしていた。
視線を再度男に向けると完全に姿が消え、気が付くと辺りは闇に沈む。
浮かびあがるのは、遠くで光る大通りの街灯、ブロック塀越しにもれる家々の明かり。
どれも路地を明るく照らすには不十分だ。
闇の中、不意に老人に頭を撫でられる。
「おじいちゃん?」
「刀真、壁に張り付いて良い子にしていなさい」
そう言ってそっと少年の肩を押した。
間もなくして、聞こえてくる駆ける足音。
老人は脇差しを足音のする方へと緩やかに構えた。
静寂に響く足音。
かなり近い。
急に月が隠れたため目が慣れないのは相手とて同じ筈。
この場合、迂闊に攻めず微光を放つ自分の刀で相手を釣り、相手の刀の出所を狙う。
脇差しを前に意識を集中させる。
暗闇に浮かぶ一本の脇差し。
おかしい。
何時からか、足音が途絶えている事に気付く。
相手はどこに?
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