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さわさわと、枯れ野で薄が揺れている。
雑木林を抜けると、林道に出た。
山の斜面を切り拓いて作られた田畑が、やぶの向こうに見え隠れする。
見慣れた景色だ。
小春は少しだけほっとした。
杉林の向こうには、どこまでも青い天。
額に手をかざしてみても、目に染みるようなまぶしさは変わらない。
はるか高みを、黒い影が舞っていた。
「ここまでくれば、大丈夫でしょう」
鳶色の髪を風に揺らし、カルマが立ち止まる。
瞳の大きな黒い目が、きらり、日差しを反射した。
「いきなりだったの。
林の中から現れて・・・・・・でも、周りに何もいないの。
影だけが動いてるって感じだった」
思い出すとまた背すじが寒くなり、小春は思わず身をふるわせた。
頭の上にぴょこんと跳ねた二本の毛束も、恐怖にざわざわふるえている。
「あれは、魔物――無明の闇の化身です」
「え・・・・・・」
毛束のふるえが収まり、今度は疑問符のかたちを取り始める。
何よ、それ? そう小春が訊ねようとした時だ。
『おおーい!』
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