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僕の態度に何を勘違いしたのか、日向は身を乗り出すようにして目を輝かせた。
「日向には関係ないだろ。ほら、教授来たよ」
「後で詳しく聞くからな」
本心だった。
僕の恋人は、高校時代に付き合った井上絢音ただひとり。
他の誰とも付き合うつもりもないし、きっと誰も好きになんてならない。
だって、僕の頭の中は絢音との思い出で溢れかえっているから。
別れて二年が経った今でも鮮明に覚えている。
最期に絢音に会ったのは二年前の今日だ。
あの日は前日から雨が降っていて、目に映る景色全てがしとどに濡れていた。
そして、今も窓硝子を絶え間なく雨が濡らしている。
気を抜けば、あの日にタイムスリップでもしてしまいそうな感覚に陥りそうになり、僕は唇を噛み締め、講義に集中した。
あんな辛い記憶を植え付けられるなら、もう二度と恋愛なんてしたくない。
「で?」
講義が終わると同時に日向が興味津々な顔で聞いてきた。
「何が」
「マジで彼女いない歴十九年なのか?」
「……関係ないって言ったろ。今日はもう講義ないから帰る」
「イケメンの無駄使いじゃねえか! つか、たまにはサークルにも顔出して行けって。おまえ新歓さえ来ないから今年の新メンバー知らないだろ」
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