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「おう。たとえセリフがなくても動きで演技するってことを加瀬が教えてくれたからな。やってみると意外と面白いし、何より加瀬と鮎川ちゃんの演技を見てるのが楽しかった。付き合ってないのが不思議なくらいだったよ。ま、なるべくしてなったってことだな。仲良くしろよ」
「日向も頑張ればチャンスはあるんじゃないか?」
少しずつ、野島の日向へ対しての態度が変わってきているところを見ると、全く脈がないとも言えないような気がした。
そういえば、野島の母親の容体はどうなんだろうか。
「うん、先日最後の手術をしたところなの。でも開いただけですぐに閉じたんだけどね……」
今日から編集作業に入ると聞いていたので、僕は鮎川と一緒に部室へ来ていた。
部室にはまだ野島の姿しかなかったが、鮎川が野島がこの作品を書いた理由を知っているかはわからなかったのだが、僕が「具合はどうですか?」と濁して聞いたところ、こう答えが返ってきたので思わず鮎川を見た。
「ああ、大丈夫。鮎川さんには話してあるから」
「そうだったんですね。野島さんはここにいていいんですか?」
身体を開いてすぐに閉じたということは、処置が出来ないということだ。それは死を意味する。
「病院はここから近いの。何かあればすぐに行けるし、それに早くこの作品を完成させてお母さんに見せたいから……」
すると、鮎川はパソコンが置かれた席へとついた。
「任せてください!」
慣れた手つきでパソコンを起動させると、早速鮎川は作業に移った。
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