95人が本棚に入れています
本棚に追加
/159ページ
「加瀬くんは作業を見に来たの? それとも私のことを心配して?」
「どちらもです」
「そう……。ありがとう。今日は日向くんはいないのね」
いつも三人で行動しているから、鮎川とふたりというのは珍しく映るのだろう。
「なんだか遠慮してるみたいで」
「遠慮……? ってまさか!」
野島がバッと鮎川の方へ振り返った。鮎川の右手で絶えず動いていたマウスが止まる。
「付き合い始めたのね、あなたたち」
「はい。それで、この作品が完成したらサークルを辞めるって話ですけど、辞めるのを辞めます」
僕の言葉に鮎川と野島が振り向き目を見開いた。
サークル続行は今決めたので、鮎川が驚くのも無理はない。
「どういう心境の変化かしら。鮎川さんがいるから?」
「それもありますけど……。大学にいる間くらいは頑張ってみようかと」
「すごく嬉しいわ! 粘ったかいがあった!」
「と、いうわけでこれからはちゃんと参加します。改めてよろしくお願いします」
僕が頭を下げると、野島は嬉しそうに頷いてくれた。
絢音とのことを思い出す要因はなるべく遠ざけてきたけれど、鮎川はそれでいいと言ってくれている。今の僕には鮎川がいる。
その鮎川が喜んでくれるのなら、頑張ってみようと思えたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!