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第三話
「カットー!」
東出の声で僕は我に返った。
無意識に流れ出た涙を手の甲で拭うと、すぐにカメラチェックをしている野島の元へと鮎川と向かう。
「素晴らしい……! 正直、鮎川さんの演技には期待してなかったんだけど、想像以上にいい! 加瀬くんに演技指導してもらってるんだっけ?」
いつになくテンションの高い野島に、鮎川は「はい! お世話になりっぱなしです」と声を上ずらせて答えた。
「鮎川さんの飲み込みがいいだけで、僕は何も」
「彼女の才能を開花させたのは加瀬くんよ。本当に役者を目指すのは諦めちゃうの?」
「考えを変える気はないですよ。それより、日向はどうですか?」
「そう! それよ! 彼、どうしたの? なんだかすごく気合いが入ってるみたいだけど……」
パックのコーヒー牛乳を飲みながら、こちらへチラチラと視線を送る日向へ聞こえないような小声で野島は僕に問いかけてきた。
「やっと興味出てきたみたいですよ」
「へえ……。二年生になってやっと? でもよかった。日向くん、私のどこがいいのかわからないけど、私の為だけにサークルに入ってるっていうのはどうなんだろうって常日頃思うところがあったのよ」
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