半分に12.涙

1/1
前へ
/101ページ
次へ

半分に12.涙

自分は滅多な事では泣きはしない。 もう良い大人なので、淡々と日々のトラブルや不都合に向かうだけ。 母を亡くしてからまともに泣いた記憶がない。 お見舞いの日、最期の日、そして見送った日は大泣きしたのだが。 良い大人なのに気持ちを制御できなかった。 もしかすると一生分泣いてしまったかもしれない。 だが時々、不意に涙が頬を伝う。 悲しいわけじゃない。 それでも涙は止めどなく流れて、主人の意思に反して流れ続ける。 目の酷使が原因か。 ドライアイが原因かと、人によっては言うだろう。 でも自分にはそうと思えず、 涙が「僕の事を忘れないで」と主張しているように感じてしまう。 次に泣くときは、案外自分を葬る時かもしれない。 己の最期に涙が出張ったなら大変だ。 まるで後悔しながらの退場にしか見えないじゃないか。 最期は笑って死なせて欲しい。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加