出会い

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「〝人と異形の均衡は保たなければならない。異形と異形の均衡もまた然り――〟。そうですよね、トキ様」  陰陽院の中でも随一と言われる己の師の言葉を思い出しながら、ヒノエは朱色の鳥居が立ち並ぶ山道を見据える。軽快な足取りで石階段を駆け上がっていると、道中様々な生き物からの敵意を肌に感じることが出来た。気性の荒くなった雑鬼や脅える獣。そんな生き物達を刺激しないよう、ヒノエは慎重に山道を登っていく。  五感の全てを刃物のように鋭くさせながら、異形らに気圧されぬよう周囲を睨みつける。 「……っ!」  その時風もないのに、ガサリと傍らの茂みが揺れた。そしてヒノエを嘲笑うかのように、左右に揺れては濃密な気配が近付く。 ――〝異種喰い〟か!  咄嗟に札を構えると、呼気を整えた。だがしかし、 「やっと見つけましたわ……! 稲荷の千本鳥居!」  声高く茂みの中から現れたのは一人の少女だった。 「え……?」 「なんですの? 貴女」  開口一番。その少女はそう尋ねながら訝しげな眼差しを此方に向けてきた。 「キミ……陰陽師?」 「私の名はミズハ。陰陽院からの指令で来ましたの」 「ボクは、ヒノエ。ミズハも……この御山に?」  ヒノエは少女の身形が神社の祭司や巫女の装束でないことに気づく。  そしてその装束をよく見るとそれはヒノエと同じ藍色をした職階を表した物だった。 「見たところ貴女も陰陽師――それも〝新米〟陰陽師のようですけれど、この御山に何の用かしら。私は〝優秀〟ですから、指令でわざわざ来たんですの」 「キミだってボクと同じ装束じゃないか。同じ〝新米〟なんだろ?」  故意に新米と強調されたことに、ヒノエはムッとしながら同様に言い返す。 「ボクも指令を受けて来たんだ。上司から直々にね」 「な、何ですって? お師匠様からはそんな話聞いてませんわ。せ、せっかく私だけの指令だと思って張り切りましたのに……。お師匠様は意地が悪いですわ」  何故か悔しげな表情浮かべる少女の齢は凡そ十六、七歳ほどだろう。ツンと尖った印象を与える気の強そうな瞳。白磁の肌に腰にまで流れた黒髪は美しかった。
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