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「そっちの事情は知らないけど……ようは目的は同じなんだろう? 御山の様子も、異形のこともまだ分かっていないことが多い。一緒のほうがお互い助かるんじゃない」
不安定な御山の様子は、ミズハ自身も目にしている筈だ。それならばむやみやたらに単独行動するよりも、協力したほうがずっと良い。
「どうしてですの?」
「え……?」
不意の切り返しに、ヒノエは呆気にとられた。
「どうしてこの私が貴女なんかと行動を共にしなければならないの? たかが山頂にある祠程度、私一人で充分ですわ。貴女のような役に立つかも分からないような方と一緒にいたくはありませんわ」
直後、ミズハは法具であるのか一本の毛筆を抜き放つと詠唱を始めた。
「此水不是非凡水 水不洗水 北方壬癸水 百鬼消除 邪鬼呑之如粉砕 急々三奇君勅令――翠華招水」
流暢に紡がれる言葉。だがその言葉に含まれたものは刺々しく、敵対心が嫌でも感じ取れる。侮辱、暴言、拒否。大凡ぶつけられるだけのあらゆる負の感情がそこには混じっていた。
「調伏して差し上げますわ!」
ミズハが一気に筆を振り下ろす。するとヒノエの背後からけたたましい悲鳴が上がった。ヒノエが背後を見やると、底には黒い水に倒れ伏す異形の姿があった。
「どうかしら。私の能力は。あんな異形の存在にも対応できない貴女に何ができて?」
フンと鼻を鳴らし自身に満ちた表情で笑うミズハ。
「貴女の上司がどなたかは存じ上げませんが……。貴女のような〝新米〟に命じるなんて何を考えていらっしゃるの――」
「黙れ」
ミズハの言葉が最後まで紡がれるより早く、ヒノエは鋭い言葉を叩きつけた。
「ボクのことはどう思おうが言おうが構わないけど。ボクの上司のことまで侮辱するなら、キミのことを赦さない」
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