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「ねぇ...。
奥さんと私、どっちの方が好き?」
行為が終わり、身支度を整える彼の背中に向かい、投げ掛けた言葉。
私の方を振り返ると、その人は困ったように笑って聞き返した。
「...意地悪な質問だね。
それ、答えないと駄目?」
私はクスクスと笑い、答えた。
「うん、駄目。」
彼は軽く肩を竦めて、そしてまだ裸のままの私を強く抱き締めた。
「それさぁ、ホント、意地悪過ぎる二択だよね。
...どう答えても、絶対フキゲンになるでしょ?」
彼は私に対して、決して嘘を吐かない。
でもその代わり、都合の悪い質問には、端から答えようとはしない。
「あは、確かに!なら、質問を変えるね。
...私の事は、好き?」
彼は満面の笑みを浮かべると、私の頭をなで、そして答えてくれた。
「うん、好き。大好き!」
そんな顔をして、そういう風に答えられたら。
...私はこの人の側をまた、離れられなくなるじゃないか。
「...ホント、狡いよね。」
くくっ、と笑って、肩に思い切り噛み付いてやった。
痕を付けさせてはくれない彼への、せめてもの嫌がらせ。
痛みのせいで眉間に皺が寄るのを見て、少しだけ気持ちがスッキリした。
「んー...。狡い、はちょっと、悲しいかな。
そういう風に、君には思われたくないから。」
そう言った彼の声も表情も、とても苦しそうで。
...でもやっぱり、狡いよ。
だってそれ以上私に何も言わせない為に、唇を塞ぐのだから。
何度も角度を変え、お互いを貪り合うようなキスを交わす。
そしてそっとその唇を離すと、彼は微笑んで聞いた。
「君も僕の事、好き?」
私はお互いの唾液で濡れた唇で、嘘の言葉を紡いだ。
「...大っ嫌い。」
彼は少し苦笑して、それからまた私を抱き締めた。
「それでも僕は、大好き。...ごめんね?」
【....fin 】
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