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夏の葬列《そうれつ》
「お姉ちゃんは夢って見る?」
妹の声を聴いて、菜月は顔を上げた。目の前には明日香の疲れた顔があった。目の下には隈ができていて、肌の張りもなかった。二十歳の大学生には見えないな、と菜月は思いつつ妹に尋ねた。
「夢っていうのは寝てるときの? それとも将来の?」
「寝てるときの」
「あんまり見ないかな。でも、それはもしかしたら覚えてないだけであって、実際は見てるのかもしれないけど」
「わたしはね、よく見るの。でもほとんど覚えてられない。すごく面白い夢やすごく悲しい夢だなあって感覚はあるんだけど、内容が思い出せないの。
いつも布団の中でうたた寝しているときに思い出そうとするけど駄目。すごく面白くて、これはそのまま小説とかにしたら絶対いいなって思うんだけど、どうしてもまどろみの中に引きずり込まれちゃう」
「ビートルズの『イエスタデイ』だ」
「何それ?」
「ポール・マッカートニーが夢の中で聴いた曲をそのまま作ったのが『イエスタデイ』なんだって。夢っていうのは潜在意識のあらわれで、それをヒントにアーティストが作品を創るのは、わりとよくある話よ」
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